社長ノート
Kameemon Leader’s Note 2025年6月号
「“見えない資産”を育てる—金融と介護に共通する価値」
金融の世界では、資産には「見えるもの」と「見えないもの」がある。株式や不動産といった具体的な資産はすぐに数値化できるが、企業のブランド価値や信頼といった「見えない資産」は、長い時間をかけて積み上げられ、企業の持続可能性を左右する重要な要素となる。
介護においても同じことが言える。介護サービスの質は、単に提供される支援の内容だけでなく、「信頼」「安心」「人とのつながり」といった、目に見えない価値によって成り立っている。6月号では、こうした「見えない資産」の重要性に焦点を当て、介護と金融の共通点を考えてみたい。
数字では測れない価値が、本質を決める
金融業界では、企業の財務データや市場動向を分析し、数値的な指標で評価を行うのが一般的だ。しかし、実際の投資判断では、それだけでは不十分である。たとえば、消費者の信頼が厚い企業や、従業員が誇りを持って働いている企業は、短期的な利益の変動に左右されにくく、長期的な成長が期待できる。
介護も同じだ。利用者一人ひとりにとって、介護サービスを選ぶ基準は「時間あたりのコスト」や「提供されるサービスの種類」だけではない。「この施設のスタッフは信頼できるか」「ここでなら自分らしく生きられるか」といった、数値化しにくい要素が、最終的な満足度を大きく左右する。
イギリスでは「コンパッション・ケア(Compassionate Care)」という考え方が浸透している。これは、単に技術的な介護を提供するのではなく、利用者の感情や価値観に寄り添い、心のつながりを大切にするケアのことを指す。日本でも「介護の質」を向上させるためには、こうした目に見えない価値をどう育てるかが重要な課題となる。
信頼を築くことが、持続可能な介護の基盤になる
金融の世界では、「ブランド価値」や「企業の信用力」は、一朝一夕で築かれるものではない。長い時間をかけて積み重ねられた実績と、誠実な対応が信頼につながり、それが企業の安定性を支える重要な要素となる。
介護においても、利用者やその家族の信頼を得ることが、事業の持続可能性に直結する。たとえば、一人の利用者に対して単に決められたケアを提供するだけでなく、「この人にとって何が最も大切か?」を考えながら関わることで、利用者とスタッフの間に深い信頼関係が生まれる。このような信頼の積み重ねが、地域社会における介護サービスの価値を高め、持続的な発展を可能にする。
2025年、介護における“見えない資産”を育てる
介護とは、単なるサービスの提供ではなく、「人と人との関係を築くこと」である。目に見えない価値——信頼、安心、つながり——を大切にすることが、介護の未来をより豊かなものにしていく。
人は、感動と感激が行動を変える。そして、その行動が、介護の未来を創る原動力となる。
2025年、私たちは「見えない資産」に目を向け、介護における本当の価値とは何かを考え、実践していく年にしたい。短期的な成果だけでなく、長期的な信頼の構築を重視することで、介護の未来はより明るいものになるはずだ。
株式会社亀右衛門 代表取締役社長 福嶋 俊造