社長ノート

Kameemon Leader’s Note 2025年8月号

「リスクとリターン—金融と介護に共通するバランス感覚」

 金融の世界では、リスクとリターンは表裏一体の関係にある。リスクを取ることで大きな利益を得られる可能性がある一方で、安定を重視すればリターンは限られる。このバランスをどのように取るかが、投資家にとって重要な判断となる。

 介護の世界でも、「リスクを取ることを避けるか、それとも一定のリスクを受け入れてでも可能性を広げるか」という問いに直面する場面は多い。例えば、高齢者に対して「安全を最優先にする」ことは大前提だが、それと同時に、「できることを増やす」という視点を持つことも重要だ。

「守る」だけではなく、「可能性を広げる」

 金融の世界では、「リスク管理」は単なる「危機回避」ではない。適切なリスクを取ることで、成長の機会を得ることができる。同じように、介護においても、「何もしないこと」が必ずしも最良の選択肢ではない。

 例えば、転倒のリスクを考えれば、高齢者の活動範囲を制限するのが最も安全かもしれない。しかし、それによって筋力が衰え、生活の質が低下することもある。イギリスの介護施設では、「ポジティブ・リスク・テイキング(Positive Risk Taking)」という考え方がある。これは、「本人の意欲や幸福感を尊重しながら、適切な範囲でリスクを受け入れる」ことで、生活の質を向上させるというものだ。

 日本の介護では、リスクを避けることが優先される傾向がある。しかし、本当に利用者の幸福を考えるならば、「何を失うリスクがあるか」ではなく、「どんな可能性があるか」を見極める視点が必要ではないだろうか。

リスクを分散するという考え方

 金融では、リスクを管理するために「分散投資」という手法がある。一つの銘柄に資金を集中させるのではなく、複数の投資先に分けることで、リスクを最小限に抑える。

 介護でも、同じ考え方が応用できる。例えば、「要介護度が上がるのを防ぐためには、どのような選択肢があるか?」を考えると、特定の方法に依存するのではなく、運動・栄養・社会参加など、多方面からアプローチすることが大切だ。一つのやり方に固執するのではなく、状況に応じて柔軟に対応することで、リスクを分散しながらより良い介護を実現できる。

2025年、介護におけるリスクとリターンを見直す

 介護の現場では、「リスクをゼロにする」ことが求められる場面が多い。しかし、それによって利用者の生活の質が損なわれていないだろうか?

 人は、感動と感激が行動を変える。そして、その行動が、介護の未来を創る原動力となる。

 2025年、私たちは「適切なリスクを受け入れること」を考え、介護における新たな選択肢を見つける年にしたい。金融の視点を活かし、リスクとリターンのバランスを見直すことで、より良い介護の形を模索していこう。

株式会社亀右衛門 代表取締役社長 福嶋 俊造