社長ノート

Kameemon Leader’s Note 2025年1月号

「介護と金融—“信頼を積み重ねる”という本質」

 私はこの「Leader’s Note」を通じて、介護の未来について考え、発信していくことになった。介護業界は今、急激な変化の中にある。高齢化、介護人材の不足、制度の見直し——これらはすべて、業界が「次の時代」を迎える前触れだと感じている。

 私は長年、金融の世界にいた。ロンドンの金融街で働き、経済の動向を読み、資産を管理し、企業の成長を支援する仕事をしてきた。金融と介護、一見すると全く異なる分野のように思えるが、実は本質的に共通するものがある。それは「信頼を積み重ねる仕事である」という点だ。

 2025年の「Leader’s Note」では、金融と介護の共通点について考えながら、私自身が感じてきたこと、そしてこれからの介護の未来について、毎月発信していきたいと思う。私はイギリスに30年近く暮らした経験があり、その中で見てきた介護の在り方も織り交ぜながら、より広い視点で介護を語っていくつもりだ。

介護も金融も、“信頼”で成り立つ

 金融の世界では、最も価値がある資産は「信用」だ。投資家は企業の未来を信じて資金を投じ、企業は顧客の信頼を得ることで成長していく。短期的な利益を追うだけではなく、長期的に信用を積み重ねることこそが、真に価値のある経営を支える。

 介護もまた、信頼の上に成り立つ仕事である。利用者が介護者を信頼し、介護者が利用者の人生に寄り添うことで、初めて良いケアが生まれる。信頼がなければ、どれだけ優れた技術があっても、心から安心できる介護にはならない。

 イギリスでは、「パーソナル・センタード・ケア(Person-Centered Care)」という考え方が浸透している。これは、利用者一人ひとりの価値観や生き方を尊重し、それに合わせた介護を提供するアプローチだ。たとえば、ロンドンのある施設では、利用者の人生のストーリーを記録し、それに基づいて日々のケアをカスタマイズしている。単に「食事や入浴の支援をする」のではなく、「その人がその人らしく生き続けるために必要なことは何か?」を第一に考えるのだ。

 この視点は、金融における「顧客本位のサービス」と同じだ。投資も介護も、相手の未来を見据え、信頼を積み重ねながら支援する仕事なのだ。

長期的な視点を持つことの大切さ

 金融の世界では、「短期的な利益にとらわれず、長期的な視点で資産を成長させること」が重要とされる。これは、介護にも当てはまる。

 介護を考えるとき、「今この瞬間に最も効率的なケア」を提供することも大切だが、それだけでは不十分だ。「この先、その人がより自立し、より豊かな人生を送るために必要なことは何か?」という視点を持つことが重要だ。

 たとえば、イギリスでは、介護を受ける人が地域社会とつながり続けられるような仕組みがある。「ソーシャル・プリスクリプション(社会的処方)」と呼ばれる制度では、医療や介護の枠を超えて、地域のコミュニティやボランティア活動と利用者を結びつける取り組みが行われている。こうした「人とのつながり」こそが、長期的に見て利用者のQOL(生活の質)を向上させる鍵となる。

2025年、介護の未来を創るために

 介護は「支える仕事」ではなく、「共に生きる仕事」である。

 人は、感動と感激が行動を変える。そして、その行動が、新たな介護の形を生み出し、未来を切り拓く原動力となる。

 2025年、私は金融の視点から介護を見つめ、業界の未来を考える一年にしたい。介護とは何か? その本質とは? そして、より良い介護を実現するために、私たちは何をすべきなのか?

 信頼を積み重ねながら、一歩ずつ、より良い介護の未来を創っていこう。

株式会社亀右衛門 代表取締役社長 福嶋 俊造